pc4beginnerの日記 はてなブログ版

はてなダイアリーで書いていたブログの移行です。

「コクリコ坂から」を見てきた 追記

なんとなく書き足りなかったので追記。もちろんネタバレ有り。












で。コクリコ坂からのキャラクターについて。


男性視点で見ると、主人公の女の子である海は完全無欠少女です。決して出しゃばるではなく、しかし芯は強く、家事全般をあの歳できりもりし礼儀を躾られている。しかし学校をサボタージュ出来る柔軟性もあるし、ファザコンであるなど脆い部分も持ち合わせています。彼女としてだけでなく嫁としても(尻に敷かれそうですが)パーフェクトな女性です。反則。


こんな女性から好かれたらたいていの男性はコロリでしょう。家族かもしれないなんて思ったらそりゃイライラするってもんです。それすら中央突破してくる海の強さには脱帽なんですが。


で、それを受け止める側のもう一人の男の子側の主人公、俊も結構な反則野郎です。学校新聞を私物にして気になる女性にメッセージを送ったり、学校活動で一番目立つところで活躍したり、サラリと自転車デートの後でコロッケをおごったり(貧乏なんだろ、コラ!)とか。ちょっとイケメンでさわやか君にこんな事されたら、たいていの女の子はコロリです。実体験として(くそう)。


これに加えて中央突破を計った海を受け止める度量と良い、結果的にそうでなかった運の良さと良い、好き勝手に生きやがれとエールを送るしかありません。どこまでご都合主義なんだ。


結局、原作が少女漫画なのでこんな無敵カップルが誕生します。これが少年漫画では、結構な割合でカップルの男側は情けなく描かれます。理由は割愛。


そんなわけで、非日常的な理想的カップルが清い交際をしているだけで心が洗われました。まぁ、既に黒光りするほど真っ黒なので白くはなりませんが。


あと、出て来る登場人物がとにかくいい人だらけ。イラッとする愛すべきキャラクターは居ますが、そんなキャラも根はお人好しなので許せてしまう。


これは他のジブリ作品に通じるものがありますが、根っからの悪党が基本的に出てこないんですよね。ラピュタムスカぐらいか。借り暮らしのアリエッティの男の子も非道い子だとは思いますが、それはさておき。


良い人しかいないという「非日常」もこの映画を楽しむ要素でしょう。


あと、前回のエントリで書いた時代背景の描写について。


自分がガキの頃にはほんのりとそんな香りが商店街や駄菓子屋に残っていました。これを知るかどうかは30代後半ぐらいがその境目だと思います。つまり、時代的には80年代のバブルのちょっと前を知っているかどうか。


自分は両親が商売やってた事も有って、家が忙しいと隣の家(まぁ、ここも商売やってたんですが)で軒先にいる犬と遊んでたんですね。延々と。するとそのうちのおばちゃんやおばあちゃんが家に入れてくれて、そこでお菓子を食ったりメシを食ったりして育った記憶があります。俺のソウルフードにこの家の炊き込み御飯がリストに載ってるぐらいです(すげぇうまいんです)。


この隣人に育ててもらう感覚、田舎の方だと結構あると思うんですが今はどうなんでしょう。共同の空間がある下宿やお手伝いさんがいる、この映画の中にある境界線が曖昧な世界。隣近所や商店街の人との交流の中に自分という「個」が確立されている世界。長らく都会で暮らして忘れかかっている感覚が呼び起こされるものがありました。


それが良いかどうかではなく、かつてそういう時代があった。完全に外界と切り離された「個」が確立された現在を生きている世代の親たちは、そういう「個」の境界線が曖昧な世界で生きてきた人たちだったりします。そしてその次の世代の子供達は、コンピュータという道具とwebという仕組みを利用して「個」の曖昧な世界を築き上げつつある。


そんな事をこの映画を見ていた時ではなく、エントリを書きながら思い付いたわけです。


だからなんだよ、と言う話ですが。


この映画を見た後にベストセラーの「県庁おもてなし課」という本をやっと読んだのですが、こういう話がベストセラーになるのは今の日本はちょっと振り返りを必要とするタイミングなのかなと思いました。読むと分かります。※いろんな含蓄が含まれており、高いハードカバーでも元が取れるお勧めの本です。


今の日本は大震災が起こり、原発問題を長く引きずる状態で、なおかつ戦後に構築された政治やマスコミ、社会のシステムが維持しきれなくなりつつある(そこまでではなくても、疑問を呈されている)。いままでの「普通」の価値観が根底から覆されつつあります。


しかし今も昔もそこに生きているのは変わらぬ人間で、なんだかんだ言いながらたくましく生きています。そして今の時代でもたくましく生きている事を自覚している人たちは、人の可能性を信じて(信じられるので)昔と同じようにたくましく生きています。でも、それを自覚できていない人たち(人、ではない)は心が折れたり、動けなくなったり、傷ついたりしています。


そんな人たちは、たくましく生きている人(人たち、ではない)がどうやってたくましく生きているのか。この映画を見て、それに気付く事が出来ればプロデューサーの鈴木さんのキャッチコピーも生きてくると思うのです。


そう、このキャッチコピーが。


上を向いて歩こう


今日はそんな感じで。でも、足下にも気をつけて。

【関連リンク】
 ・コクリコ坂から(公式サイト)