東京モーターショーと豊田社長と絶滅危惧種の車
東京モーターショーは80年代のバブルの頃、世界最大の自動車展示イベントでした。
世界中の車が一堂に会し、様々なコンセプトカーと共に夢を見せてくれたものです。
そんなバブリーな頃、コンパクトな車が一部の車好きの間でもてはやされていました。
その名前はトヨタ カローラレビン・スプリンタートレノ。
カローラレビン
フロント周りが違うだけのこの兄弟車は、当時廃れはじめていた後輪駆動(FR)ということと安い価格で、サーキットや峠を走る愛好家にもてはやされたのです。これらの2台の車は共通の形式名称「AE86」から「ハチロク」と呼ばれるようになりました。有名なところでは漫画の「頭文字D」なんかの主人公の車がこれだったりします。以降、これをハチロクと呼んでいきます。
時は流れ。
年々、海外メーカーと観客数が減り、世界最大の座は中国に譲ってしまいました。
たしか北米(デトロイト)のモーターショーにも負けてたかと思います。
そんな中、大の車好きで知られるトヨタの社長、豊田章男さんがこんな車を発表しました。その名も「86(ハチロク)」です。こちらは以降、86と呼びます。
かっこいいです。
若者の車離れを、良い車を作ることで防ぎたい。
80年代にワクワクできた車を作りたい。
そんな社長の思いが結実した車のようです。
でも、売れないと思います。
何故なら、過去のハチロクとは色々違うからです。
当時、その愛好家達はハチロクを「中古車」で入手していました。
安く買うためです。暫くするとプレミア価格がついていましたが、せいぜい100万程度です。
ちなみにこの新しい86は300万ぐらいするようです。
また古いハチロクの愛好家は、サーキットや峠をハチロクで走り回っていた人はガソリン代や改造費、タイヤ代などでキュウキュウしている人が多かったです。
バブル期の給料でこれなのですから、今の給与水準で同じような遊びをするのはなかなか大変です。
ハチロクは下駄感覚で走れる車でした。フィットやヴィッツに毛の生えたような感じです。
新しい86はカッコイイし、新車で買ったらちょっと気を使ってしまいます。
ハチロク(というかカローラレビン)は当時、レースでホンダのシビックと覇権を争っていました。
私もそのシビックの末裔であるシビックタイプR(EK9)に乗っていますが、レースの結果を見る度にそれはもうワクワクしたものです。
しかし今はもう、そのシビックは日本では売られていません。
ボディを大きくし、この86のように高性能化したタイプRも含めたシビックはハイブリッドを除き昨年静かにその販売が打ち切られました。
なにより、そのシビックもハチロクも、実はファミリーカーをスポーティに仕上げた車でした。
そのためファミリーカー譲りの使い勝手の良い車だったのは見逃せません。
このカッコイイ車が、どこまでの日常の中での使い勝手を実現しているかはパッと見微妙です。
価格が違う。
使われ方も違う。
ライバルもいない。
なにより作られ方が違う。
時代が求めていないところに出てきたこの86は、売れるために様々な制約が課されています。
果たしてそこまで考えて作ったのでしょうか。
売れて欲しい車ですが、残念ながら私が欲しい車ではないのでお気楽にエールは送れません。
せめて過去に販売され、FRとして一時は人気を博したアルテッツァ位は売れてくれることを祈るばかりです。
今日はそんなセンチメンタルな感じで。